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相続税計算の過程

不動産オーナーに限らず相続税の節税対策でイメージするのは負債があった方が有利

という考えからアパートを借金して建築するというスキームを連想するかもしれません。

相続税を計算する流れとして課税対象となる相続財産全体から非課税財産を差引き負債や

葬儀費用などを差引いた相続税の課税価格から基礎控除を差引いた課税遺産総額を基に

して相続税を計算します。

確かに計算過程においては相続財産全体から負債を差引くので課税遺産総額は圧縮され

ますので効果があるように見えます。

 

バランスシートに置き換えてみます。

では、バランスシート(B/S)に相続財産全体を当てはめて考えて見ます。

B/Sの左側には総資産が記載され、右側には負債と純資産が記載されます。

つまりB/Sで考えると右側の純資産に当たる部分が基礎控除を差引く前の

相続財産評価額になります。

相続税計算でアパート建築という観点から負債と資産の関係を考えると例えば、

土地持ちの不動産オーナーが評価額1億円の土地にアパート建築費1億円を

かけてアパートを建築したとします。1億円は全額を借入とします。B/Sの

右側の負債には1億円が記載されますが、左側の資産には相続税評価額として2億円

(土地1億円+建築費1億円)とは記載されません。建物の相続税評価額は固定資産税評価額に

なりますのでこの場合は、おおよそ建築費総額の6割程度の6千万円と土地評価額

1億円の合計1億6千万円と記載されます。

つまり資産から負債を差引くと純資産は6千万円(資産1億6千万円―負債1億円)

になります。

アパート建築をすることによって土地1億円の評価額から6千万円に評価額が圧縮されます。

相続税評価額上の観点では評価額が圧縮され相続税が掛からないまたは下がったという

事で負債があったから下げられたという評価ができるかもしれません。

 

不動産を活用した相続対策の本質とは?

しかし、一方で相続対策の基本は時価と相続税評価額の乖離を上手く利用して資産を

残していくという事があげられます。その意味では不動産の場合は一般的にはこの効果が

あるので不動産活用がされます。

では、土地とアパートの合計の時価は今回の場合2億円でしょうか?アパートのような

収益物件の時価は年間収入賃料によって時価(いわゆる売買価格)は大きく左右されます。

投資家目線で見ればアパート購入額(投資額)に対して毎年幾らの収入があるかで購入するか

否かを判断するので年間収入が多い方が良いのです。

しかし賃貸アパートの賃料にもその物件の地域の相場というものもあるので相場を超えて

収入を得るというのは難しいものです。

例えば、本件のアパートが月額賃料6万円のワンルームが15室あったとします。

年間賃料は1080万円(6万円×12か月×15室)です。この周辺のキャップレートが

新築で6%だとします。

この物件の時価は年間賃料をキャップレートで割り戻すことで算出されます。

つまり1080万円÷6%=1億8千万円が本物件の時価になりなります。

(正確には年間賃料から毎年掛かる経費を除くので実質賃料はさらに下がりますので

時価もさらに下がります。)

 

建築前と建築後では資産はどう変わるのか?

建築前の土地の時価ベースのB/Sで見ると左側の資産には土地1億円、右側の純資産も

1億円です。

しかし建築したことで左側の資産には土地建物の合計1億8千万円(本物件の時価)が

記載され、右側の負債には1億円が記載され純資産には8千万円が記載されます。

つまり更地の時の1億円よりも純資産が2千万円喪失したことになります。

これでは、結果として相続税対策には全くなっていないという事が分かります。

(相続税対策は実行した結果、資産価値を高め相続評価額を下げることです。)

更に今後、アパートを建築した地域が賃借人の入居が見込めないことになると年間収入

賃料が減り、時価も当然下がることになりますのでこれ以上の資産喪失もあり得ます。

 

最後に・・・

収益不動産の活用での相続対策は賃料収入自体が不動産価格に直結をするので費用対効果

という観点ではその不動産の地域性に大きく左右されます。

相続税を圧縮することだけが目的なってしまうとアパートを建築して終わりになってしま

います。不動産活用は建築した後の方がむしろ重要で不動産運用がうまく見込めない場合は

アパート建築はやめた方が良く、相続対策は何が目的なのか明確にしておく必要があります。